東京高等裁判所 昭和26年(う)3431号 判決
原審第二回公判調書の記載によれば、同公判期日には証人渡辺正之、同雨宮伝作の尋問が行われ、検察官は両証人の公判供述は同人等の前の供述と反するというので、刑訴第三二一条第二項により、右両人の各検察官に対する供述調書謄本の取調の請求を為し、これに対し弁護人はこれ等を証拠とすることに同意せず、特に渡辺証人に対するものは同人が検察官に取調べられた時の心神情況から見て同公判期日の供述が真実であるから右書類の証拠調には異議がある旨陳述したのに、裁判官は右弁護人の異議申立を却下して、これ等の証拠調を実施したことは所論のとおりである。而して原裁判所は右書類は右証人等の右公判期日における供述と右検察官に対する供述とを比較対照し、右供述調書の供述記載の方が公判期日の供述よりも信用すべき特別の情況が存するものと認めてこれを証拠に採用したものと認められるが、右証人等の公判期日における供述と右書類の供述記載の内容を比較対照しても、その記載内容自体からは直ちに右供述調書の供述記載の方が公判期日の供述よりも供述内容の自然性その他信用すべき特別の情況の存するものは認めることができない。証人の公判期日の供述よりも前の供述の方を信用すべき特別の情況が存するかどうかは、供述記載自体からこれを認めることのできないときは、その供述調書が作成された当時の供述者の態度その他諸般の情況を調査してこれを決すべきものである。しかるに原審は被告人の検察官に対する供述調書についてはその任意性の点を、その供述調書の作成者である検察官を証人として取り調べているが、右両証人の検察官に対する供述が公判期日の供述よりも信用すべき特別の情況の存することについては何等調査をした形跡は認められない。
しからば原判決には所論のような訴訟手続の違法があり、これは判決に影響を及ぼすものと認められるので、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄すべきものであるから他の論旨に対する判断は省略する。